parallel game ・ 1
「ここは、どこ?」
いきなり突然何故だか解らないけれど、私と秋夜君は全く知らない所に居た。
「何処なのかな?」秋夜君は質問で返す。「少なくとも日本では無さそうだよね」
「そうよね。じゃぁ、どこか外国って事かしら?」
もしかして、タダで海外旅行? それはステキかもしれない。なんだかラッキー☆
「外国って訳でも無さそうだけど……。大体どうしてこんな所に来たのかが解らないよね」
「本当にいきなりって感じだったものね」
私達は、ついさっきまで水族館でデートをしていた筈なのだ。色とりどりの綺麗な魚達を秋夜君と見ている所だったのに……、何故?
「ぼくとしては、潤が居るなら何処でも構わないんだけどね」
「もちろん私もよw」
やっぱり秋夜君はステキねv私だって秋夜君が居るなら異世界でもOKなんだからw
あ、でも何だかそれは冗談では終わらなさそう。もちろん本気で言ったんだけど、そういう意味で無く、本当に異世界かもしれない、と言う事だ。
「とりあえず、誰かにここが何処か尋ねてみようか」
「そうね」
秋夜君の提案に、私は辺りを見回す。
どうやら私達の居るのは、大通りから少し外れた路地らしい。ここには全く人気が無いので、大通りの方へ行く事にした。
「あ、あの男の子にでも聞く?」
「そうしようか」
私達と同じ年くらいの、赤みのかかった茶髪の男の子が、ちょうどそこを通り過ぎて行ったのだ。
ちょうど人が通るなんて、運が良いわねv
「ねぇ、ちょっと聞きたい事があるんだけど……」
そう言って、後ろから肩を叩こうとしたら、避けられた。そのまま男の子は振り返って、聞き返した。
「何だ?」
素っ気無いし、なんだか冷たそうな雰囲気の男の子だけど……良い人なのかもしれない。ちゃんと返事をしてくれたし。
「ここが何処なのか教えてくれないかい?」
「ここはグリムニードだ」秋夜君の質問に、男の子は簡潔に答える。
やっぱり日本じゃないらしい。どう聞いても外国っぽい地名だし。だったら、ここは何処なんだろう? 国名も聞いておくべきか、と思った時、秋夜君も同じ事を考えたらしく、それを男の子にまた訊ねた。
「ついでに国名も教えてくれないかな?」
その質問に男の子は訝しげな表情をする。
「ベゼル=リンカナ連邦共和国だが、いくら別の国から来たからって、それすらも解らないなんて事があるのか?」
「…………? 別の国から来たって解るの?」
「解る。何となく、だがな」
……えーっと、良く解らないけど男の子には私達が別の所から来たって事が解ったらしい。何でだろう?
「どうやら、本当に異世界みたいだね」
秋夜君の言葉に、私は一番重要な事を思い出す。ここが何処なのか、それが問題だったのを。
「そうね。私、そんな国聞いた事が無いし。……って、ちょっと!」
男の子がもう用事が済んだかの様に立ち去ろうとしたので、呼び止める。
「ねぇ、日本って言う国知ってる? それからあなたの名前は? 私は深海潤、こっちの彼が海影秋夜。私のステキな彼なのよw で、出来ればこの辺を案内して欲しいんだけど!」
「……何から答えろっつーんだよ」と言いながらも律儀に答えてくれる。「あー、日本なんていう国は無いぞ。で、オレの名前はキールだ。この辺の案内は……他のヤツに頼めよ」
異世界決定。……て事は、どうすればもとの世界に戻れるか考えないといけない訳で。
「お願い! 頼めるのはあなたしか居ないのよ、今の所!!」
すぐにでもどっかに行ってしまいそうな男の子――キール君の腕をがっしりと掴んでお願いしてみる。
「急いでるとか言うのなら仕方ないけど、そうじゃないんだったら案内してくれないかな」
秋夜君もそう頼む。
するとキール君は、
「……解ったよ」
と快く承諾してくれた。
そして、彼はこう訊ねた。
「で、何でお前らはこんなトコに来たんだ?」
――所変わって、とある場所。
「……ここは何処なんでしょうか?」
「私だって聞きたいね」
「少なくとも俺の知っている所じゃないよなぁ」
広場の真ん中で、突如自分の身を襲った奇妙な出来事に頭を悩ます男女三人。
「いきなりここへ来てしまった、って事だけは確かだね」
そう言ったのは、結構長い茶髪をポニーテールに括った目つきの鋭い無表情な少女だ。彼女は名前を水城小夜と言う。
「テレポーテーション? でも、水城も星輝さんも俺も超能力者じゃないよな」
これは香月拓弥、何処にでも居そうな普通の少年だ。ただ、怪談・心霊現象・その他諸々のいわゆる超常現象に詳しいと言う妙な性癖を持っている。
「そうですね。それに、もしそうだったとしてもこんな何処だか良くわからない所へ飛ばす理由がありませんよね」
こう返したのは、黒髪で童顔の小柄な少女、星輝麻乃だ。彼女と小夜は従姉妹同士であるが、似ている所が全く無いのではないかと思われる。
「訳が解らないね。とりあえず、誰かに尋ねるのが良いんじゃない? どこか解ればこれからどうするべきか考えられると思うけど」
小夜の提案に、香月が行動した。
「じゃぁ俺、聞いてくるな。幸いここは人が多いし」
そう言って、ちょうど通りかかった背の高い黒髪の男に、声を掛けに行った。
「……あいつは、やっぱり良いヤツだね」
「小夜さん……自分で行くのが面倒くさかっただけなんでしょう?」
麻乃が、小夜の呟きに呆れ交じりで答えた。
――はたまた変わって別の場所。
「何でいきなりこんな所に居るのかしらね」
「さあな。ただ、日本では無いな。建築様式が全く違っている」
「何処なんでしょうかね?」
あるアンティークショップの前で、妙な会話をする三人の男女。
「ここにあるアンティーク、見た事の無い物ばかりだけれど、こんな物があったかしら?」
そう言って店を覗き込んでいるのは、髪を後ろでアップに纏めた、どちらかと言えば背の高い少女。彼女は天薙結架と言う名前だ。
「確かにそうだな。俺も見た事が無い」
そう返したのは、伊吹京也。さらさらな黒髪に理知的な顔つき、いかにも頭の回転の速そうな少年である。
「私にはアンティーク自体解らないんですけどね……」
一人そう呟いたのが、保科詩織だ。彼女は、黒髪が肩の辺りではねていて、眼鏡を掛けている。
「大体どうしていきなりこんな何処だか解らない場所に飛ばされてるんですか」
「全く解らないな。何の蓋然性も無ければ、必然性も無い。今すぐに結論を出せるような問題では無いだろう」
詩織の質問に京也が返事をするが、答えにはなっていなかった。
「やっぱり情報収集が重要よね。様々な人に尋ねてみようかしら」
そう言って結架が店を出ようとした時、八、九歳くらいの少年達が声を掛けてきた。
「ねえねえ、おねーさん達よその人なの?」
「何処から来たんですか?」
とてもそっくりな顔をした、双子の少年達だった。茶色の髪に、少年特有の好奇心を瞳に輝かせている。
「そう、よそから来たの」結架が答えた。「それでね、ここが何処か良く解らないのよ。教えてくれない?」
「リセル=グローラだよ」
少年はそう言って、にっこり笑った。
――やっぱり変わって別の場所。
「ねー練無ぁ、ここ何処か解る?」
「さぁ? こんなトコ、来たことないよね」
やけにあっさりと現状を受け止めている少女が二人。良く似た顔立ちの双子の少女だ。髪を括っているのが姉の浅見練無、おろしている方が妹の紗菜だ。
二人は公園の中にあるベンチに座っている。目の前には小さな池があった。
「この池、やけに小さくない?」
「無理やり造ったんだろうね。この公園自体が小さいから……」
そう池について二人が話していると、一人の少年が声を掛けてきた。
「浅見さんたちじゃないですか」
その声の主を見ると、二人の知っている人物だった。
「あ、トキ君。何でこんな所に居るの?」練無が聞いた。
「それはこっちの科白ですよ。どうしてあなた方がこの世界に居るんですか?」
遊馬渡稀と言う名の、額に白いヘアバンドをしたニコニコしている少年は、心底不思議そうに尋ね返した。
「どういう意味? まるでここが異世界みたいな言い方だね」
「異世界ですよ。あなた方の住む世界とは違う世界なんです。気が付いてなかったんですか?」
少女二人はそろって頷いた。
「全く気が付かなかったよ。気が付いたらここに居たんだし」
「そんなの解る訳無いって。来たのはついさっきだしね」
「……そうですか」彼は呆れた様に呟いた。「あなた方もどうやら僕と同じらしいですね。誰かにここへ飛ばされたんでしょう」
「へぇ、そうなんだー。だからこんな事になってるんだね?」
「紗菜、のん気過ぎだよ。帰る方法を考えないと」
「僕からすれば二人とものん気ですが。とりあえず色々な所へ行ってみませんか? 帰る方法探す為に」
トキがそう提案すると、紗菜が真っ先に反応した。
「良いね。観光しよう、観光!異世界なんてそうそう行けるもんじゃ無いしね」
それは間違ってるだろう、と二人とも思いはしたが、あえて口には出さなかった。
――今度は世界すら変わって、悪魔界。
「ふふふ、これでいいかしら」
「少ないだろう。もっと飛ばした方が楽しいと思うが」
「そうね。これだけじゃあまり楽しめないわね……」
すべての元凶である二人の男女の会話。
暗い緑色でウェーブのかかったかなり長い髪を持つ性格の黒そうな女性と、これもまた長い金髪の冷ややかな目つきをした男性である。女性の方はエマ・クライム、男性はエイザード・シエンと言う名前である。
二人は、いわゆる"悪魔"と言うヤツで、ふとした気紛れで、『人間を異世界へ飛ばしてしまおう!』と思い付いたのだ。何とも迷惑な話である。だが、それを止める者は居なかった。彼らは、この世界の中でトップの存在なのだ。止めようにも止められない、と言うのが正しいだろう。
「……ずいぶんと楽しそうだな」
そう言ってこの部屋に入ってきたのは、短い金髪に青い目の無表情な十八歳くらいの青年だった。
「いい所に来たな、ライル。君に仕事を与えようじゃないか」
エイザードが、それはそれは楽しそうに告げた。
「今、人間を何人か異世界へ送ってやった所なんだ。そいつ等を元の世界へ戻すのを手伝ってやってくれ」
「……は?」
「これはゲームなのよ。どうすれば帰れるか、それを探すゲーム。ふふふ、私達はここから眺めてるから、せいぜい頑張ると良いわ」
「…………」
ライルは、何も答えずにそこから立ち去ろうとした。が、クライムが彼の肩をがしっと掴んで、
「大丈夫よ。今すぐ飛ばせられるし、他にも何人か飛ばすつもりだから。人数が多い方が面白いもの」
にっこりと、言った……。