parallel game ・ 3
――――少し時間はさかのぼって、ある広場。
「ここは、リセル=グローラ。君たちは何処から来たんだい?」
黒髪で長身の男が、突然に尋ねてこられたにも関わらず、丁寧にそう返した。
「日本って言う国ですよ」香月は彼に答えてから、小夜に訊ねた。「知ってるか? リセル=グローラってのが何処か……」
「聞いた事が無いよ。麻乃は?」小夜は即答し、
「…………、わたしも知りません」麻乃はしばらく考えてから答えた。
「俺も無いんだよなー……」香月はそう言ってため息をつく。
彼ら三人――正しくは香月と麻乃の二人――が悩んでいるのを見て、男が助け舟を出した。
「ついでに言うなら、ベゼル=リンカナ連邦共和国の南の方なんだが……君達は別の世界から来たのかもしれないね。日本なんて国はこの世界には無い筈だよ」
……助け舟なのかどうかは、はなはだ謎だが、まぁ置いといて。
「この世界には無いと、どうしてはっきりと言えるんですか?」麻乃が尋ねた。
「この世界には国が四つしかないからだよ。そのどれでも無いと言う事は、この世界に無いのだと言わざるを得ないだろう? それに、その質問をする時点で既に、その事を自分で証明している様なものだよ」彼はそう説明した。
「そうなんですか……」香月が納得した様なしていない様な返事をした。
「あなたはそんな非現実的な事を、簡単に認められるんですか? いくら何でも同じ様な事が度々起こる訳ではないと思いますが」
その小夜の質問に、男は苦笑して答えた。
「さすがにそれは無いよ。可能性の問題じゃないのかな。そんな事が全く無いとは言い切れないからね」
そんなのであっさりと肯定してしまうのはどうかと、小夜は内心思ったが、そんな事いちいち言わなかった。
「で、君達はどうするつもりなのかい? ここは君達の居た世界とは違うんだろう?」
小夜達三人は顔を見合わせた。そんな事を聞かれても、彼らにはどうしようもないし、どうして良いかも解らないのだから。
「どうしましょう?」
「さあね」
「とりあえず、この辺の探索でもするか?」
「あ、それ良いですね」
他の人達と同じく、そんな提案が出た。どうやら、異世界に来てしまった場合、とりあえずはそのような行動をするしかない様だ。
「なら、観光でもするかい? 案内してあげるよ」
……結局はそういう展開になる様でもあるらしい。
「構わないんですか?」香月が念を押して訊ねた。
「良いよ。どうせ暇だからね。――俺はルート。君達は?」
「俺は香月拓弥です」
「えっと、星輝麻乃です」
「水城小夜です」
と、四人自己紹介をして、その辺をぶらつく事となった。
――所変わって、某アンティークショップ。
「リセル=グローラか。聞いた事の無い地名だな」
「そうね。やっぱり別世界みたいよ、ここは」
「そうらしいな」
そんな風に、京也と結架はいつもと変わらずに平然としている。しかし、詩織はそう割り切る事は出来ないらしく、一人困惑している。
「あの、先輩方は何でそんなに普段通りなんですか?」
「そう? そんな事は無いわ。ただ、こういう場合はどうしようもないでしょ?」
「それに、別世界である事の否定要素も無いしな」
詩織は、二人の言葉にどこか納得できずに居るが、仕方が無いのでとりあえずうなずいておいた。
「別世界から来たんだって!」
「すごいね! どうやって来たのかな?」
双子は三人の会話を聞いて、興奮していた。そりゃぁそうだろう。ファンタジーが、すぐ目の前にあるのだから。
「ねぇねぇ、ぼくらも異世界にいけるの!?」片方の少年が訊いた。
「うーん、それは解らないわね。私達は知らないうちにここへ来ていたのよ」
結架の言葉に質問した少年は少しがっかりした様だが、すぐに気を取り直して、
「じゃあ、お姉さん達の世界の事を教えて!」
と言った。
「ちょっとユウマ、それはずうずうしくない?」
双子の片割れがそれを諫める。
どうやら、性格が少し違うらしい。ユウマと呼ばれた方が少し幼く、もう片方の方が大人びている。
「でも、ソウマも聞きたいよね?」
「それはそうだけど……」
そのやりとりを聞いて、思わず結架の表情が緩む。
「別に構わないわ。こことそう大した変わりは無いみたいだけど、それで良ければ」
「「え、ほんとに!? お願い!」」
双子がハモッてお願いする様子は、何とも微笑ましいが、肝心な事を忘れてはいないだろうか?
「あら、あなた達、帰れなくても良いのかしら? 異世界に飛ばされたって言うのに随分とのん気ね」
何処からともなく声がしたと思うと、いきなり人が現れた。
背が高くてスタイルが良く、濃い紫色の髪は腰まで届いていて、とても美人な、詩織達と同じくらいの年頃の少女だ。それに続く様にして現れたのは、かなり背の高い、ふわふわな髪をした優しげな顔立ちの、彼らよりは少し年上くらいの青年。それから、色素の薄い髪を二つに結んだ、ごくごく平凡な少女が一人。彼女もおそらくは詩織達と同年齢だろう。
「ちょっと里見さん! 異世界ってどういう事!?」
二つ結びの少女が、紫の髪の少女にくってかかる。
「言葉通りよ」そう言って紫髪の少女がにっこり笑む。「貴重な体験が出来て良かったわね」
「……別にそんな体験なんていらないのに……」彼女は肩を落としてため息をついた。
その様子を訳が解らずに無言で見つめていた彼らは、次の一言で現実に引き戻される。
「ところで、あなた達は今の状況をどう認識しているのかしら?」
「とりあえず、異世界に来たとしか認識は出来ていないな。どうしてそうなったのか、何故そうなったのかは全く解っていない」
京也の言葉に、背の高い青年が口を開いた。
「まぁ、そんなものだろうね。いきなり飛ばされたんだろうから」
「と言う事は、全部知っているのだと考えても良いんだな?」
「"方法" と "理由"、それから "人物" は知っているよ」
「"手段" は?」
「それはこれから探さないといけないらしい」
……京也と青年、この二人だけに通じるものがあるのだろうか、こんな会話は他の誰にも通じていない。周りの五人――紫髪の少女は除く――は、それぞれ不思議そうな表情をしていた。
「あの……京也先輩、どう言う事ですか?」
詩織が全員の思いを代弁するように、そう尋ねた。
「詳しい事は彼らが知っている、と言う事だ。とりあえずここへ来たのは何故かは解るだろう」
「まぁ、そう言う事ね」紫髪の少女が京也の言葉にうなずく。「聞きたいかしら?」
「えぇ、教えて欲しいわね」結架は言って、「私は天薙結架よ。あなた達は何と言う名前なのかしら?」
「私は里見麻衣よ」紫髪の少女が名乗る。「彼はシリウス・ウォルターズ。その隣に居るのが戸叶初音よ」
他の二人も紹介した後、彼女は説明をし始めた――――――
「――まぁ、そう言う訳なのよ。だから、頑張って帰る方法を探してちょうだい」
麻衣はにっこりとそう言った。
「里見さん、なんでそれに関係なかった私まで巻き込む訳? 悪魔でも何でも無いってのに……」
初音がうんざりした様に声を上げる。彼女は、本人が言う様に悪魔でも何でも無い、単なる一般人である。
「それはもちろん面白そうだからよ。言ったでしょう? "貴重な体験が出来て良かったわね" って」
「だからそんな体験いらないって……」
これでようやく周りもこの二人の状況が解った様だ。
麻衣に巻き込まれて訳が解らずにここへ来てしまった初音が、一番可哀想な人物なのではないだろうか……。
「て事は、こっちのお姉さんとこのお兄さんは悪魔なんだよね?」
「そんな風には見えないけど。やっぱ本とかに書いてあるのは怖くしてあるんだね」
「だね。悪魔って何が出来るんだろう? 知ってる、ソウマ?」
「本人達に聞くのが一番いいと思うけど」
ユウマとソウマはあっさりその話を信じて、そんな事を言いあっている。
「一応状況は解りましたけど、これからどうするんですか? 帰るにはその方法を探さないといけないんでしょう?」
信じざるを得ないところに居る詩織達は、どうしようもないので、これからどうするかを話し合う。
「……しかし、探すと言っても、何の手がかりも無いとなると難しいな」
「それがあの二人らしい所だね」シリウスが口を挟む。「本当に帰る方法があるのかすら怪しいよ」
「多分何も考えていないわね」麻衣もそれに続く。「ただ右往左往する人を見たいだけだもの」
……はっきり言って、終わるかどうかすら解らないゲームの様である……。