imitation puzzle 3日目・1
我思う、故に我在り
それを真理だと思える人間が一体どれ程居るというのか
そんな言葉すら知らない人間だって居るだろう
そんな言葉を知らなくともそこに到着した人間も居るだろう
人間は、考えるから"ホモサピエンス"なのだ
考えなくなってしまったら、その存在に意味は無い
思考する事こそが、人間の存在価値
すべてが矛盾していても、それでも考えろ
何の矛盾もしない事など、この世界には無いのだから
我思う
ゲームとやらが始まって三日目。生徒の間は、その話で持切りだった。
けれど誰も、自分だけは大丈夫だと言う自信があるのか、不安そうな生徒はほとんど居ない。怪我人や死人が出た事など、まるで関知していないかの様に……。
私は休み時間を利用して、本を読んでいた。"蝶の舞う夜"だ。
読み進めていくうち、奇妙な感覚に襲われる。友久先輩の言う通り、この"ゲーム"にそっくりなのだ。始まり方から今まで起こっている事までがシンクロする。今日も、あちらこちらから不可解な出来事が聞こえてくるが、それさえもほとんどが同じなのだ――この本に書かれている出来事と。背筋が凍りつく思いがした。
――これは偶然か、必然か?
何にせよ、ただの偶然ではないだろう。犯人は十中八九この本を読んでいるだろう。でなければ、何故ここまで内容が一致しているのか解らなくなる。この本の貸し出し履歴でも調べてみるか。犯人がここで借りて読んだのかは判らないが、何か手掛りが掴めるかもしれない。
……ほんの僅かな期待でしかないが。
と言う訳で、早速私は昼休みに図書室へ行き、貸し出し履歴を調べる。そう言うのはすべてコンピュータが管理している為、すぐに調べられる。
少しして、この本を借りた生徒のリストが出てくる。ここ三年間に絞ってある為か、そんなに沢山は居なかった。十人程度である。もちろんその中には私、それから友久先輩の名前があった。後は……飛鳥も借りた事があるらしい。名前があった。それ以外で知っている人の名前は無い。とりあえず、一応書き写すだけ書き写しておく。
「何調べてんだ?」
不意に声を掛けられた。後ろを振り返ると、思った通り飛鳥だった。
「んー、ちょっとね。飛鳥こそ、その本の量は何?」
飛鳥の両手には、十五冊くらいの本が抱えられていた。私が尋ねると、苦虫を噛み潰したような顔で飛鳥は答えた。
「半分はレポート用なんだがな、もう半分は志岐のヤツが"ついでに借りて来て欲しいな"とかほざきやがってさ。わざわざリスト拵えて渡すんだぜ? コレ全部持ってくの大変だと思わねーのか、アイツは?」
「ご愁傷様。修一は多分そんな事考えてないよ。頭の上にでも持ってってあげれば良いんじゃない?」
そうアドバイスしてあげると、飛鳥はニヤッと笑って、
「ついでに、落ちない様に上から支えてやるさ。全体重をかけてな」
と言った。ご愁傷様なのは、修一なのかもしれない……。
「あぁ、そうだ。飛鳥、この本読んだことあるよね?」私は例の本を見せながら聞いた。
「ん?……あると思うぜ」考えながら飛鳥は答える。「確か主人公の名前は真夜とか言うのだったろ。内容は……あぁそうか、内容が問題なんだな?」
「何が?」
「だからそんな事訊くんだろ? この内容が今の状況と似てるからさ」
……何だ。一瞬何の事を言ってるのかと思った。飛鳥もこの本の内容と今の現実の相似に気が付いた様だ。
「そう、だから聞いてみたんだけどね。内容覚えてなかったの?」
すると飛鳥は意外な答えを返してきた。
「いや、覚えてた。けど細かいトコまで覚えてるワケじゃねーし、似てんのも誰かが真似してるからじゃねーのかと、そう思ってたからな」
成程。気にする程の事では無いと考えていた、と言う事か。そう言ってしまえばそれまでの様な気もするが、まぁいい。考え方・捉え方は人それぞれなのだ。私はこの事を気にしてみる方向で行こう。
「詩織、」急に飛鳥が、至極真面目な顔つきで言った。「これ持ってくの手伝う気はねーか?」
「……、別に良いけど」半ば呆れつつもそう答えておく。
「じゃよろしく」
半分くらいを渡された私は、あとで修一に文句を並べ立ててやろうと心に誓った。
昨日の爆発事件で、五人の生徒が亡くなったらしい。
他に九人が入院しているとも聞いた。
それなのに、いつもの様に授業は進んでいく。
誰も何も感じていないのか。
――それとも何も感じたくないのか。
私には、後者が大半であるようにしか思えない。
生徒はもちろん、先生たちですら。
まだゲームは始まって間もないと言うのに……。