imitation puzzle 4日目・1
何よりもそれらしくそれで在って
何よりもそれでない事を主張する
それらしいからと言ってそれで在る訳ではなく
それらしくないからと言ってそれで無い訳でもない
詰まるところ
物事を外見で判断してはいけないのだ
かと言って
本質だけを鵜呑みにするのも危険だが
考察
誰が何と言おうとも、時間は過ぎるし朝はやって来る。まさに今はそんな感じだ。
昨夜は何とも騒がしい夜だった。あの悲鳴を皮切りに、あちらこちらで異常事態――と言うかどうかは良く解らない――が起こっていたのだ。それは……至る所での蝶の大発生。それも、女子寮・男子寮共に、なのだ。指摘すべき点が多すぎる。なぜ、こんなに蝶が居るのか? なぜ、寮にだけなのか? なぜ、夜なのに蝶が居るのか? あれは間違いなく蝶だった。蛾と見間違えた訳ではない。
……おかしい。言うまでも無いが、おかしすぎる。
そしてその極めつけは、"綺麗だろう? ゲームのちょっとした余興だ" と打たれた紙。これが各寮の玄関に貼られていたのだ。蝶の大発生はゲームの主催者によって企てられたモノなのか? 少なくとも、私はあれを綺麗だとは思えない。きっと私の美的センスとは、ナイル川の上流と下流くらいかけ離れているに違いない。あんな大群、気味悪いだけだと言うのに……。
とにかく、そんなこんなで全員がなかなか寝付けなかったのだ。だからなるべくゆっくりと朝に来て欲しかったのだが、そんな事がある訳も無く。生徒のほとんどが眠たそうにしながら学校に来ている。私は、そうでも無いごくわずかな生徒の内の一人だった。
「詩織はあの中でもちゃんと眠れたの?」咲が尋ねてきた。
「いや、別にそう言う訳でもなく。普段からそんなに長い時間寝てる訳じゃないからかな?」
とりあえず適当に答えておく。昨日はあまり眠れなかったと言うのは本当だし、少なくとも間違った事は言っていない。まぁ、そんな事はどうでも良いのだが。
「昨日のあれは何だったと思う?なんかゲームの一環ぽかったわよねー?」
「だね。貼り紙があったし」
それは紛れも無い事実で。しかしだからと言って、本当にあれを主催者が仕掛けたのだとは言い切れない。もしかしたら、他の何者かが起こしたモノを自分がやったかの如く書いただけなのかもしれないのだから。……そうでは無いだろうと誰もが思っているとしても、可能性としては確かに在るのだ。
「咲、あの蝶の種類とか判ったりしない?」期待せずに訊いてみた。
「うーん、私には蝶なんてどれも同じに見えるし……。判るのはモンシロチョウじゃないって事ぐらいかしら?」
やっぱりそれくらいしか判らないか……。まぁいい。それは別の人にでも聞くとしよう。全校にあたれば誰かは知っ
ているだろう。知っていそうな心当たりが無くもないし、後で聞きに行くか。
……だが、それも面倒な気がする。蝶の種類なんて、別にすぐ判る必要がある訳では無いのだから。そのうち聞きに行こう、覚えていたらの話だが。
"蝶の舞う夜"と言う本について少し考察を。
この本の作者は、長月そらと言うペンネームの、まだ二十代の人物である。これは長月そらのデビュー作である。六年前に発行されたこの本は、要するに知る人ぞ知る、と言うモノなので、知らなければ本当に知らない。内容はミステリっぽいファンタジーと言うところだろうか。つまり、何でもアリの世界な訳だ。"蝶の舞う夜"は、現実では起こりえないだろう事件が起こる。例えば、衆人環視の場所から人が忽然と姿を消したり、誰にも入れなかった筈の場所で人が死んでいたり――と言ってもそれを見つけられた時点で入れない場所では無い気がするが――、まぁとにかくそんな事が起こるのだ。昨日の蝶の騒ぎも、今この学校で起こっているありえそうに無い事も含めて。
それはすべてファンタジー的な解決がなされる訳だが、今の私はここで現実的な解決をして欲しかった気がする。そうだったならば、今起こっている事も解決しやすいからだ。……現実と本の世界は違うと知っているとしても。
飛鳥が、この本を読んでいたに関わらずあまり内容を気にしていなかったのは、そういう理由からに違いない。友久先輩が、少し気に掛けていても特に何もしようとしないのも、同じ様なことからだろう。
……けれどそれでも、私は気に掛かって仕方が無い。深い含意は無いけれど、それでも。
昼休み、とりあえずそんな事を京也先輩に話してみたのだが……。
「それは、ただの偶然ではないだろうな。だが……だからどうにかなる、と言ったものでもないだろう。その本は図書室にあるんだな? 俺も読んでみるから、それまで結論は保留にして置くか。保科、どうしても気になるのなら調べてみるべきではあるだろう。借りた事のある者にあたってみると言うのも良いのかもしれないな」
結論。
本を読んでいる京也先輩には相談しない方が良い、と言ったところか。一応聞いている様なのだが、ちゃんとは聞けてはいないだろう。頼りになるのかならないのか……。
ちょうどその場に居た結架先輩が、
「それは面白そうね。私が手伝ってあげようか?」
だなんて、それは面白そうに言うものだから、思わず承諾してしまった。まぁ、結架先輩なら頼りになるしその方が良いのかもしれないが。とりあえず、その件については結架先輩と一緒に調べる事になった。
とは言うものの、借りた事のある人を捕まえるのは難しく、昼休みでは特に何も出来そうに無かった。放課後の方が、部活動が何かさえ分かれば居場所の見当がつくので良いだろう、と言う事になった。結架先輩は、全校生徒の氏名・クラス・部活動程度は完璧に把握しているらしく、私が昨日メモしておいた名前を見ただけでそれが誰の事か判った様だし。
全く本当にある意味で怖い先輩だ……。
さて、質問。
一体先生方は何を考えているのでしょうか?
今日の職員会議で決定された事。それは誰にとっても意外だったに違いない。
"学校を休校にしたりはしない"、だそうだ。
たとえ、今日も生徒が二人亡くなっているのだとしても、それでも休校にはしないと、そう言うのだ。
明後日は土曜なので休みであるが、こういう場合、明日から休みにするのではないだろうか?
今週で、生徒の数が減った事を大した事に考えていないとでも言うのだろうか?
何を考えているのか、さっぱり解らない……。
別に解りたくも無いけれど、スッキリしないのは妙に嫌だ。
私に出来るのは、状況整理のみとでも言うのか?……まぁいい。それすらも出来るのかどうか怪しいが、何もしないよりは遥かにマシだ。
少なくとも私はそう思う。
そう、思いたかった。