imitation puzzle 5日目・1
言葉は必要、言葉は重要
何かを伝えるのに大きな意味を持つ手段
なのにそれが災いする場合もある
言葉が意味を持ちすぎて、元の意味が失われる
間違ったまま、伝えられる
それを確認する術はあっても、確認できるとは限らず
それでもその言葉が真実でないと
どうして言い切る事が出来るだろうか
言の葉
――今日もまた、生徒の数が減って行く……。
現在の状況、それから心情を表すとそんな感じだろう。
ゲームが始まって五日目。すでに私も慣れつつあるらしい。とは言っても周りの方が慣れるのは早かっただろう。ほとんどの人が、その事に疑問を持たないくらいになっている。
何とも素晴しき閉鎖空間だ。
……ただ、私よりもっと考え、もっと思いつめていた人も居た様で。
私の目の前に在るモノが、それを雄弁に物語っている。もう二度と物語れはしないけれども。
「……もう、間に合わないよね……」
そこにぶら下がっている彼女は下ろしてあげた所で、間に合いはしないだろう。すでに冷たく、風に揺られるだけなのだから。
私が今居るのは、中庭のお気に入りのベンチの所。彼女はどうやらそのベンチを踏み台にして、大きな銀杏の木に縄をかけたらしい。彼女の足元には、白い封筒に入った手紙。これが何か解らない者は居ないだろう。………"遺書"だ。
弁当をここで食べようと思って来てみたら、発見してしまった。彼女は一体いつからここに居たのだろうか。この場所は校舎からは死角になっているから、誰にも発見されなかったのだと思う。……そうでなければもっと早く、助けられるくらいの時間で見つけられたのに……。
そんな事を考えた所で、今更どうにか出来る訳でも無い。
ついつい私は好奇心から遺書を見てしまった。知り合いでもないのに見て良いものかとは少し思ったが、彼女はきっと気にしないだろう。内容を見ればそれは解る。
『もう嫌だ。何もかもが。何故誰も何も感じないのか。何故誰も何も思わないのか。何故考えない。そんな事を考えた理由。そんな事を実行した動機。本当の事を知っているのか? 何も知らずに居るのは誰か。それすらも解らない。何も知らずに居られるのは誰か。それすらも想像がつかない。何処までが輪の中で、何処からが輪の外なのか? それすらも理解の外。何故誰も気が付かない? 何故誰も疑わない? 何故。如何して。そんな事に気付けない? 自分だけは関係ないと信じきって。自分だけは蚊帳の外だと思い込んで。思わされているだけと言う事を気が付かずに。気付こうともせずに。そのままずっと。ずっとそうだと如何して言える?もう嫌だ。何もかも。すべて。全部。周りのモノ全部。虚像でしかない周りのモノ全部。幻で、見世物で、無意味で、嫌で、偽りで、虚言で、それなのに、如何して何かを信じられる? もう嫌だ何もかもすべてが全部が嫌だ。誰が、何が、何故、如何して。その質問すら無意味なら。もう未練など在りはしない。さようなら』
妙に綺麗な字で書かれているのに、内容は支離滅裂。それが余計に彼女の心情を物語っている様で、怖い。最後の一言 "さようなら" も、やけにあっさりとしていて、そこにはぽっかりと穴が開いてるのではないかと思ってしまう。本当に未練など無いに違いない。
けれど解らなくも無い。それでここまでするかどうかは解らないが、嫌になる事だけは確かだ。彼女が何に対してそう言って居るのかははっきりとはしないが、見当は付く。"ゲーム"の事だろう。――ならば、この遺書は、大きな意味を持つ……?
「詩織、こんな所に居たんだな」そう言って近づいて来たのは、修一だ。「って、オイオイ! 何突っ立ってるんだよ!? この人下ろしてあげなくても良いのか!?」
「……私一人じゃ無理」
「それなら他の誰かを呼べば良いんじゃないのか?」
そう言って、彼は彼女を下ろす。私はその様子を、力があるんだな、と他人事みたいに見ていた。
「いつ見つけたんだ? 遺書とかは無かったのか?」修一が聞いてきた。
「さっき。遺書は、無かったよ」
とっさにその言葉が口をついて出た。それは思いっきり嘘だったが。
彼女の書いた最後の言葉達は、私のポケットの中にある。それを誰にも見せる気が無くなったのだ。
――封筒の内側にある、誰かに見られない様に、しかし誰かに見て欲しいかの様に、書かれた言葉によって。
『一人だけで良い。すべてに伝わるよりはその方がましだ。もしあなたが初めに読んだ人ならば』
その言葉を額面通りに受け取って良いものかは悩むが、それでも私はそうした。その文は書きかけで、そのあとに続く言葉がはっきりとはしていないが、それでも。
彼女は何が伝えたかったのか? この遺書にそれが書かれているのか? ……そんな事は解らない。ただ、適当に言っているだけなのかもしれないし。そんな事は本人にしか解らないのだから。
「どうしたんだ?」
「何でも無いよ」怪訝な表情をする修一に答える。「先生を呼んでくるから」
「解った」
私は職員室へと向かう。
「……あ、この人は、志賀菜乃香って名前だから!」
――修一が、私の背に向かってそう教えてくれた。